牧野信一
牧野信一 · 日语
牧野信一 · 日语
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原文 (日语)
R村のピエル・フオンの城主を夏の間に訪問する約束だつたが、貧しい生活にのみ囚はれてゐる私は、決してそれだけの余暇を見出す事が出来ずにゐる間に、世は晩秋の薄ら寂しい候であつた。私の尊敬する先輩の藤屋八郎氏は、欧洲中世紀文学の最も隠れたる研究家で、その住居を自らピエル・フオンと称んでゐた。が、藤屋氏は近々永年の「城住ゐ」を打切つて新生活(何んなかたちのものかをおそらく私には想像も及ばない)に入るといふことを聞いたので、是非とも私は今のうちに訪れて、あの素晴らしい家に名残を留めて置きたかつたのである。 或日私は、思ひ立つて藤屋氏を訪問するために新宿を起点とする小田原行の急行電車に軽装の身を投じた。終点の三つ四つ手前のKといふ小駅で電車を降りてから、藤屋氏の村までは二里の田圃道を過ぎ、河沿ひの、野花のさかんな堤を一直線に凡そ一里近く溯り、更に、昼なほ薄暗い森があるかと思ふと、急に明るい広々とした芝の野原に出て、この芝生を歌をうたひながら駆け抜けると、此度は物凄いすゝきの蓬々と生ひ繁つた、全く芝居めいた古寺のある荒野に入る――この辺りでは屡々婦女の遭難が伝へられる――そして滑り易い赤土の憂鬱な坂
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