Vol. 2May 2026

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Biblioteca de conocimiento mundial de dominio público

Mostrando 9336 de 14.981 títulos

村で一番の栗の木(五場)

岸田国士

山間の小駅――待合室 真夏の払暁。 発車の直後といふ気配。 二三の旅客に交つて、都会のものらしい夫婦連れが、改札口の方から現れる。一隅を選んでそこに手荷物を置き、汗を拭ひ、左右を顧み、やがて、女が先に、男がそれに続いて腰を下ろす。 他の旅客は、待合室を通り過ぎるだけである。 男は出来合ひらしい白の洋服、女は現代風のかなり整つた身じまひ。――手荷物は、服装の割

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村井長庵記名の傘

国枝史郎

村井長庵記名の傘 国枝史郎 娘を売った血の出る金 今年の初雷の鳴った後をザーッと落して来た夕立の雨、袖を濡らして帰って来たのは村井長庵と義弟十兵衛、十兵衛の眼は泣き濡れている。 年貢の未進も納めねばならず、不義理の借金も嵩んでいる、背に腹は代えられぬ。小綺麗に生れたのが娘の因果、その娘のお種を連れ、駿州江尻在大平村から、義兄の長庵を手頼りにして、江戸へ出て来

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村の兄弟

小川未明

ある田舎に、仲のよい兄弟がありました。ある日のこと、兄は、一人で重い荷を車にのせて、それを引いて町へ出かけてゆきました。道すがら兄は、弟のことを頭の中で思っていました。 「頭のいい、やさしい、いい弟だ。俺はこうして働いても、せめて弟だけは、勉強をさせてやりたいものだ。」 などと考えていました。そして、ガタ、ガタと車をひいてきかかりますと、あちらの松の木蔭に見

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村の吸血鬼

チェスタートンギルバート・キース

丘の細道の曲り角に、二本のポプラがピラミッドのようにそびえ立つて、そのためにホンの一団の家のかたまりに過ぎない小さなポタス・ポンドの村がなおさら小さく見えていたが、ここを或る時歩いていたのは、大へん目立つた型と色の衣裳をつけた男であつた……あざやかな深紅色の外套を着て純白の帽子を真黒な神々しいほどの巻き毛の上にかたむけていた。巻き毛の先きはバイロン風のはなや

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村の学校(実話)

ドーデアルフォンス

今からちようど六十年前に、フランスはドイツとの戦争にまけて、二十億円のばい償金を負はされ、アルザス・ローレイヌ州を奪はれました。その土地はこの前の世界戦争で、やつと又とりかへしました。このお話は、アルザス・ローレイヌがドイツ領になつて、村々の小学校も先生がみんなドイツ人にかはつてしまつたときのお話です。 一 私たちの小さな学校は、ハメル先生がどかれてから、が

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村へ帰った傷兵

小川未明

上等兵小野清作は、陸軍病院の手厚い治療で、腕の傷口もすっかりなおれば、このごろは義手を用いてなに不自由なく仕事ができるようになりました。ちょうどそのころ、兵免令が降ったので、彼はひとまず知り合いの家におちついて、いよいよ故郷へ帰ることにしたのであります。 胸の右につけられた、燦然として輝く戦傷徽章は、その戦功と名誉をあらわすものであると同時に、これを見る健全

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村の怪談

田中貢太郎

村の怪談 村の怪談 田中貢太郎 私の郷里で女や小供を恐れさすものは、狸としばてんと云う怪物であった。 「某(たれ)さんは、昨夜(ゆうべ)、狸に化されて家へよう帰らずに、某(ある)所をぐるぐると歩いていた」 「某さんは、狸に化されて、朝まで某処に坐っていた」 「某さんは、某さんの処へ寄って、茶を飲まして貰うて、やっと正気になって帰った」 などと狸に化されて、朝

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その村を憶ひて

牧野信一

鬼涙、寄生木、夜見、五郎丸、鬼柳、深堀、怒田、竜巻、惣領、赤松、金棒、鍋川――足柄の奥地に、昔ながらのさゝやかな巣を営んでゐるそれらの村々を私は渡り歩いて、昆虫採集に没頭してゐた。私の、いろいろな短篇小説の中に屡々現れるいくつかの村の名前は、あれは悉く現実の名前なのか? といふ意味の質問を、先夜シエーキスピアの会の帰りに宇野浩二氏から享けた。 「夜見、鬼涙、

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村の成功者

佐々木邦

乗合自動車は又々坂へ差しかゝった。○○町の中学校から村へ帰る卓造君は隅っこに大きな体躯を縮めて居睡りをしていた。連日の学期試験が今朝終った。これから長い暑中休暇が始まる。 「この切通が出来て大助かりですよ」 と一時喋り止んだ老人が扇子をパチ/\させながら又やり出した。 「以前はこゝを胸突と申しましたな」 と中老が受けた。 「然うですよ。ひどいところでした。そ

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F村での春

牧野信一

夜、眠れないと云つても樽野のは、それだけ昼間熟睡するからなので、神経衰弱といふわけではなかつた。朝寝と宵ツ張りが次第に嵩じて、たゞ昼と夜とが入れ違つてゐた。寝つきの悪さと、朝の目醒め時の不機嫌さでは小さい頃から樽野は、周囲の人達に酷い迷惑をかけ続けて来た。彼の母親は、寝せつけようとすればする程如何しても鎮まらない彼を抱いて、夜更けに屡々海辺をさ迷ひ歩かなけれ

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村のストア派

牧野信一

沢山な落葉が浮んでゐる泉水の傍で樽野は、籐椅子に凭つて日向ぼつこをしてゐた。彼は、あたりのことには関心なく何か楽し気な思ひ出にでも耽つてゐる者のやうに伸々と空を仰いでゐるが、何時の間にか眠り込んでしまつたのかも知れない、膝の上に伏せてあつた部厚な書物が音をたてゝ足許に滑り落ちても拾はうともしないから。書物は、もう少しで水の上に落ちかゝりさうなところで躑躅の小

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村々の祭り

折口信夫

村々の祭り 折口信夫 一 今宮の自慢話 ことしの夏は、そんな間がなくて、とう/\見はづして了うたので、残念に思うてゐる。毎年、どつかで見ない事のない「夏祭浪花鑑」の芝居である。音羽屋と言ふ人の、今度久しぶりで、院本に拠つた団七九郎兵衛は、見たかつたけれども、今更どうにもならない。でも、其演出は原作に忠実であつたと言ふだけに、一个処見て置きたい場面があつた。「

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村へ行く

鶴彬

晴れわたる秋の遠山は、らんじゅくした、女のらたい、ふっくらとした、山肌は、女の、いんこうのごとき、谷をきざむ。ああ、はるかに見る、秋の山山は肉感的なるかな十時五分前太陽はさんらんと放散するのに馬車にへこんだ、村の道を、詩人があるく  ×一せいに高い、けやきの枝は、やみ上がりの女のかみのごとく、うすく宙をねらう土蔵の壁の白く明るく。村を吐き出されたひとびとは、

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村で見た黒川能

折口信夫

黒川能東京公演に先だつこと二个月、私は偶然あの村(黒川村)に行き合はせて能及び狂言を見ることが出来た。(本誌前号誌上で話した通りである。)そこで上京公演の日も近いといふことを聞いた時、私は、これが果して東京の目の肥えた、しかも高ぶつた能の常連に私共の得たやうな深い感銘や同感を持たせられるかどうかと、黒川村の舞台、能役者その他の敬虔な気分に刺戟された共感から危

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村のひと騒ぎ

坂口安吾

その村に二軒の由緒正しい豪家があつた。生憎二軒も――いや、二軒しか、なかつたのだ。ところが、寒川家の婚礼といふ朝、寒原家の女隠居が、永眠した。やむなく死んだのであつて、誰のもくろみでもなかつたのである。ことわつておくが、この平和な村落では誰一人として仲の悪いといふ者がなく、慧眼な読者が軽率にも想像されたに相違ないやうに、寒川家と寒原家とは不和であるといふ不穏

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しゃもじ(杓子)

佐藤垢石

しゃもじ(杓子) 佐藤垢石 二、三日前、隣村の老友が私の病床を訪れて、例の「しゃもじ」がまた出たという。 貴公が、出あったのか。 いや、僕ではない、近所の青年が度胆を抜かれよった。 さては、彼の狸め、今もって頑健であるとみえるな。 怪物「しゃもじ」のことについては拙著「狐火記」のうちに書いておいたが、しかしこのような剽軽な変化は、二度と再び出るものではあるま

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杜松の樹

グリムヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール

むかしむかし大昔、今から二千年も前のこと、一人の金持ちがあって、美くしい、気立の善い、おかみさんを持って居ました。この夫婦は大層仲が好かったが、小児がないので、どうかして一人ほしいと思い、おかみさんは、夜も、昼も、一心に、小児の授かりますようにと祈っておりましたが、どうしても出来ませんでした。 さてこの夫婦の家の前の庭に、一本の杜松がありました。或る日、冬の

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条件反射

豊島与志雄

条件反射 豊島与志雄 煙草 煙草の好きな某大学教授が、軽い肺尖カタルにかかった。煙草は何よりも病気にさわるというので、医者は禁煙か然らずんば節煙を命じ、家人たちもそれを懇望し、本人もその決心をした。ところが彼は、多年の習慣で、煙草の煙が濛々と立罩めた中でなければ勉強が出来ない。節煙の決心で書斎に坐っていると、うまいまずいの問題ではなく、殆ど無意識的に、いつし

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ものぐさじじいの来世

小川未明

あるところに、ものぐさじいさんが住んでいました。じいさんは、若いときから、手足を動かしたり、人にあって話をしたりすることを、ひじょうにものぐさがって、いつもじっとしていることが好きでありました。 花が咲いても、どこかへ見物に出かけるでなし、お祭りがあっても、わざわざいってみるという気持ちにもならず、一日、じっとして背中を円くしてすわっていました。 年をとって

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来り人の地位と職業 平民申付候事

喜田貞吉

山の幸、海の幸にのみ活きておった太古の状態から、次第に進んで世の中の秩序も整頓し、住人にも一定の株が出来ては、他国者や風来人がやって来て、住み着こうとしても容易な事ではない。中には京都の北の八瀬の様に、絶対に他村者をすら入れぬという頑固なところもある。よしやうまく住み着いて、職業上交際上、平素あまり区別のない程にまで融和が出来ても、なお縁組などの場合には、「

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来年は何をするか

牧野信一

ある先輩が経営することに決つた其鰤敷魚場は今月(十一月)から来年の六月迄房州の何某村(村名を今ちよいと失念した)で行はれる。僕は其処に赴いて働くであらう。艫を漕ぎ、網を引き、魚を担ぐであらう。合宿所に投じ、未明に起床し、黄昏時に就寝するであらう。黄昏時に起床し、見張船に徹宵し、魚群到来を合図するトラムペツトを吹き鳴すであらう。獲物を満載し、旗を翻して夜あけの

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来訪者

永井荷風

わたくしはその頃身辺に起つた一小事件のために、小説の述作に絶望して暫くは机に向ふ気にもなり得なかつたことがある。 小説は主として描写するに人物を以てするものである。人物を描写するにはまづ其人物の性格と、それに基いた人物の生活とを観察しなければならない。観察とは人を見る眼力である。然るにわたくしは身辺に起つた一瑣事によつて、全然人を見る眼力のないことを知り、こ

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来訪者のモデル

伊庭心猿

御成道のうさぎや主人、谷口喜作さんから「先生はいまタカちやんと君のことを書いてゐるさうですよ」と知らされたのは、まだ空襲もさう激しくならない、たしか昭和十八年の春頃だつたと覺えてゐる。 タカちやんといふのは、即ち永井荷風氏の近業「來訪者」の登場人物白井巍君のことで、當時房州保田に住んでゐたので、自ら房陽山人と號し、終戰後發表された先生の日記の中に、南總外史と

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うまれて 来る 雀達

新美南吉

うまれて 來る 雀達 新美南吉 その 雀は びつこでした。まだ やつと 飛べるやうに なつたばかりの 頃、いたづらな 少年に とらへられて 片足を ひもで 固く 縛られましたため か弱い 足は きづついて しまつたのでした。 その びつこの 雀が 麥畑の 黄く なる 頃 或る 家の 軒に 三つの 卵を うみました。 雀は うれしくて うれしくて、三つの 卵を

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