伊藤左千夫 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
かこひ内の、砂地の桑畑は、其畝々に溜つてる桑の落葉が未だ落ちた許りに黄に潤うて居るのである。俄に寒さを増した初冬の趣は、一層物思ひある人の眼をひく。 南から東へ「カネ」の手に結ひ廻した垣根は、一風變つた南天の生垣だ。赤い實の房が十房も二十房も、いづれも同じ樣に垂れかゝつて居る。霜が來てから新たに色を加へた、鮮かな色は、傾きかけた日の光を受けて、赤い色が愈赤い。 門と云ふ程の構では無い。かど口の兩側に榛の古木が一本づゝ、門柱形に立つてる許りだ。とうに落葉し盡した榛の枝には、殻になつた煤色の實が點々として其された枝々について居る。朽ちほうけた七五三飾の繩ばかりなのが、其對立してる二本の榛に引きはへてある。それが兎に角に此の家の門構になつて居る。 はたと風は凪いで、青々と澄んでる空にそよとの動きも無い。家の一族も今は塒に入らん心構へ、萱の軒近くへ寄りたかつて居る。家の人々は未だ野らから歸らぬと見えて、稻屋母屋雪隱の三棟から成立つた、小さな家が殊に寂然として靜かだ。 表の戸も明いて居り庭の半面には、猶、籾が干されてあるに、留守居の人も居ないのかと見れば、やがてうら若い一人の娘子が、眞白き腕をあ

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