稲垣巌 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
わたくしはヘルン小泉八雲の次男であります。最初にお断り申し上げて置きますが、今宵の私のお話は「父」としてのヘルンを語るのでなく、文学者としてのヘルンを語るのが主旨ですから、「父」とは申さず「ヘルン」と申すつもりです。従って「母」のことを「ヘルン夫人」と呼びます。少々キザに聞えるかも知れませんが、特別の場合を除いては、「父」とか「母」とかは申しませんから御承知置き下さい。 ヘルンの作品の中には奇談怪談を取扱った物語や研究が随分沢山見出されます。「怪談」「霊の日本」「支那怪談」「異文学拾遺」など、著書の題名が既に内容を語ってゐるものはいふまでもなく、其他「骨董」でも「異国情趣」でも「きまぐれ」でも「天の河縁起」でも、ヘルンの殆ど全作品を一貫してゐる特質は、此の「怪奇」といふことであります。怪しい、不思議な、異常な世界、これがヘルンの目指し求めた「芸術の本質」なのであります。 過敏な神経と、強烈な想像力を享けて生れた彼が、其の少年時代を、精神的に淋しい環境に育てられ、青年時代には物質的にドン底生活を強ゐられるに到って、ますます現実生活の難渋から逃れて、空想の国に慰安を求めやうとし、次第に霊的

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