宇野浩二 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
むかし、あるところに、それはそれは正直なおばあさんが住んでいました。けれども、このおばあさんは子もなければ、孫もないので、ほんとうの一人ぼっちでした。その上、おばあさんの住んでいたところは、さびしい野原の一軒家で、となりの村へ行くのには、高い山の峠を越さねばなりませんでしたし、また別のとなり村へ行くには、大きな川をわたらねばなりませんでした。 だから、おばあさんは毎日々々ほとけ様の前に坐って、鉦ばかり叩いていました。きっとこのおばあさんにも、以前は子や孫があったのかも知れません。それがみんなおばあさんより先に死んで、ほとけ様になったのかも知れません。だから、さびしいので、そうして毎日ほとけ様ばかり拝んでいたのでしょう。 それに、食べるものは裏の畑に出来ましたし、お米は月に一度か、二ヶ月に一度川向うの村へ買いに行くので用は足りましたし、水は表の森のそばに、綺麗な綺麗な、水晶のようなのが湧いていましたし、――だから、おばあさんは何にも心配することも、いそがしい用事もない訳でした。 ただ、時々近くの街道を往来する旅の人が足を疲らしたり、咽喉をかわかしたりして、おばあさんの家へ一ぷくさしてくれ

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