梅崎春生 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
八※岳登山を試みたのは、昨年の八月末のことで、メンバーは僕んとこ夫妻、遠藤周作夫妻、遠藤君の教え子のグラマー嬢たちが数人、それに斎藤さんと言う人で、この斎藤さんは土地の人で、案内役をして呉れることになった。 初めは八※岳に登る予定じゃなかったのである。八※岳麓の白駒※池という池に行く予定であった。足弱の遠藤君が脚に自信がないからと言ってそれに決め、皆もそのつもりで渋温泉に行き、そこで一泊した。 その晩、グラマーたちがクーデターを起こし、八※岳連峰の一つテング岳登頂を主張したのである。 斎藤さんは初めから僕らをテング岳に連れて行きたかったのだから、もちろん大賛成で、つづいてグラマーたちの熱意に遠藤夫人が同調、次にうちの夫人が同調というわけで、残るのは男性二人になってしまった。 遠藤君はしきりに、 「イヤだなあ。おれ、テングなんかイヤだなあ。やはり予定どおり白駒※池にしようよ」 と哀れっぽい声を出していたが、僕は少し酔っぱらっていたので、 「いいじゃあないか。遠藤君。民主主義の世の中だから、多数決と行こうよ」 などと言ったものだから、それが鶴の一声で、いっぺんにテングということに決定してし

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