円城塔 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
彼の趣味は箱庭であり、鉄道の方はあとからついてきた。だから最初は、小さな庭でも家のミニチュアでも構わなかった。かといって、押絵を風呂敷に包んで旅するような趣味があるわけでなし、縮小するのは持ち運びのためではなかった。旅をするのが面倒なので、宇宙の方をとじこめてしまう。そういう気風が彼にはあった。すなわち、旅をするなら箱庭の中を旅したいのであって、箱庭を持って旅をするなどは本末転倒ということになる。しかし一方、箱庭なるものには息苦しさが伴うのも確かであって、これは箱という制約からくる。とじこめたいが、息はしたいというのが彼の贅沢すぎる悩みである。風景には空気穴がなければならぬ。 それには、幾筋かの道をつけてやればよい、というのが試行錯誤の末に彼の至った結論であり、右から左へ、あるいは逆に、貫通する何かをおいて気を通わせる。手前から奥では遠近法を強調するようでややあざとい。自動車教習所のような環状の道には徒労感が伴うし、岬の果てや盲腸線といった想像は淀みに通じる。どこからくるかはしらないし、どこへ行くかもわからない。とにかくそこを経由することだけが確かな、切り取られた流れが彼の気性に合った

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