大鹿卓 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
稚内ゆきの急行列車が倶知安をすぎ、やがて山地へかかって速力がにぶると、急に雪が降りだした。粒が細かくて堅く結晶した雪だということは、車窓にふきつけるサッサッササ……という音でわかった。線路近くのエゾ松林に、防雪林などと書いた棒杭が見出された。その林の青黒い枝々はすでにかなりの雪を積らせていて、飛白の布地のように目を掠めてゆく。いうまでもなく、雪が急に降りだしたわけではなくて、汽車が降雪地帯へ入ったのにすぎなかった。 私は去年の七月にも根室まで行くので同じ沿線を眺めて通った。そのときの記憶はまだ真新しく、目をつむれば新緑のなまなましさに覆われたこの辺りの風景が、まざまざと脳裡にうかんでくる。そのためかいま瞼をあけて見返す車窓は、いっそう荒涼と眺めわたされた。それに一昨夜発ってきた東京は未だ晩秋で、街をゆく男達は誰も彼も合服姿だった。私は出発間際に急に冬服に着かえて來た。その冬服冬外套も重苦しく感じないほど、私も北海道の寒さを昨日以来体得して来た。だが、さすがに霏々と降りしきる雪を見ては、北国へ来たという感慨もさることながら、距離と時間の観念がちぐはぐになったかんじだった。私は何か憂愁を帯

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