小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ある、うららかな日のことでありました。 二郎は、友だちもなく、ひとり往来を歩いていました。 この道を、おりおり、いろいろなふうをした旅人が通ります。 彼はさも珍しそうに、それらの人たちを見送ったのであります。 二郎は、こうして街道を歩いてゆく知らぬ人を見るのが好きでした。 さまざまなことを空想したり、考えたりしていると、独りでいてもそんなにさびしいとは思わなかったからです。 暖かな風が、どこからともなく吹いてくると、乾いた白い往来の上には、ほこりが立ちました。 まだ、おそ咲きのさくらの花が、こんもりと、黒ずんだ森の間から見えるのも、いずれも、なつかしいやるせないような気持ちがしたのであります。 その日も、二郎は独りあてもなく、街道を歩いていました。 車の音が、あちらへ夢のように消えてゆきます。 薬売りかなぞのように、箱をふろしきで包んで負った男が、下を向いて過ぎていってからは、だれも通りませんでした。 二郎は、寺の前の小さな橋のわきに立って、浅い流れのきらきらと日の光に照らされて、かがやきながら流れているのを、ぼんやりとながめていました。 彼はほんとうに、このときはさびしいと思っていた
小川未明
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