小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
梅雨のうちに、花という花はたいていちってしまって、雨が上がると、いよいよ輝かしい夏がくるのであります。 ちょうどその季節でありました。遠い、あちらにあたって、カン、カン、カンカラカンノカン、……という磬の音がきこえてきました。 「また、あのお祭りの時節になった。ほんとうに月日のたつのは早いものだ。」と、お母さんはいわれました。 あや子はある日のこと、学校の帰り途に、その小さなお寺の境内にはいってみました。するとそこには、いろいろの店が出ていました。そして、子供らがたくさん、どの店の前にも集まっていました。赤い風船球を売っているのや、あめ屋や、またおもちゃなどを売っているのが目にはいりました。 あや子はそれらの前を通りぬけて、にぎやかなところから、すこしさびしい裏通りに出ようとしますと、そこにも一人のおばあさんが店を出していました。やはり、駄菓子やおもちゃの類に、そのほか子供の好きそうなものを並べていました。あや子は、べつにそれまではなにもほしいとは思いませんでした。ただ、いろいろな店の前を過ぎて、それらをながめてきたのでありますが、いま、おばあさんの店の前にさしかかって、ふと歩みを止め
小川未明
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