小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
太郎は長い間、病気で臥していましたが、ようやく床から離れて出られるようになりました。けれどまだ三月の末で、朝と晩には寒いことがありました。 だから、日の当たっているときには、外へ出てもさしつかえなかったけれど、晩方になると早く家へ入るように、お母さんからいいきかされていました。 まだ、桜の花も、桃の花も咲くには早うございましたけれど、梅だけが垣根のきわに咲いていました。そして、雪もたいてい消えてしまって、ただ大きな寺の裏や、圃のすみのところなどに、幾分か消えずに残っているくらいのものでありました。 太郎は、外に出ましたけれど、往来にはちょうど、だれも友だちが遊んでいませんでした。みんな天気がよいので、遠くの方まで遊びにいったものとみえます。もし、この近所であったら、自分もいってみようと思って、耳を澄ましてみましたけれど、それらしい声などは聞こえてこなかったのであります。 独りしょんぼりとして、太郎は家の前に立っていましたが、圃には去年取り残した野菜などが、新しく緑色の芽をふきましたので、それを見ながら細い道を歩いていました。 すると、よい金の輪の触れ合う音がして、ちょうど鈴を鳴らすよう
小川未明
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