小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
寒い、北の方の小さな町に、独り者の男が住んでいました。べつに不自由はしていなかったが、口癖のようにつまらないといっていました。 「もっと、おもしろく、暮らされないものかな。」と、知った人にあうごとに、たびたびもらしていました。 また、同じ町に、かわったおじいさんが、住んでいたのです。このおじいさんは、昔の古い本を見ていました。なんでも、当世のことよりか、昔のことが好きで、古い本に書いてあることを信ずるというふうでした。そして、いつも、縁の太い大きな眼鏡をかけていました。 「人間の造った、機械には狂いがあるが、お日さまのお歩きなさる道にちがいはない。」といって、おじいさんだけは、日時計を置いて、時刻を見たので、万事、おじいさんのすることはそういうふうだったのです。 * * * * * ある日のこと、男が、このおじいさんに向かって、いつものように、さもつまらなそうな顔つきをして、 「こう毎日、空が曇って、陰気ではしかたがありません。おじいさん、なにか、愉快な幸福の身の上となることは、できないものでしょうか。」と、たずねたのであります。 おじいさんは、短い、綿のたくさんはいっ
小川未明
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