小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
野原の中に一本の松の木が立っていました。そのほかには目にとまるような木はなかったのです。 「どうして、こんなところに、ひとりぼっちでいるようになったのか。」 木は自分の運命を考えましたけれど、わかりませんでした。そして、そんなことを考えることの、畢竟むだだということを知ったのです。 「ただ、自分は大きくなって、強く生きなければならない。」と思いました。 見上げると、頭の上をおもしろそうに、白雲がゆるゆるとして流れてゆきました。 また、あるときは美しい小鳥たちが、おもしろそうに話をしながら飛んでゆきました。しかし、雲も小鳥たちも、下に立っている木を見つけませんでした。 「小さくて、わからないのだな。」 木は、ため息をついて叫んだほど、その存在を認められなかったのです。 早く大きくなろうと木は思いました。認められたいばかりでなしに、地平線の遠方を見たかったからです。一年はたち、また一年はたつというふうに過ぎてゆきました。そして、この松の木が、すこしばかり根もとの地の上に、自分の小枝の影が造られるほどになったとき、その存在を認めてくれたのは、空をゆく雲でもなければまた小鳥たちでもありませんで
小川未明
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