小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
正二くんは時計がほしかったので、これまでいくたびもお父さんや、お母さんに、買ってくださいと頼んだけれども、そのたびに、 「中学へ上がるときに買ってあげます。いまのうちはいりません。」というご返事でした。 戦争がはじまってから、時計は、もう外国からこなくなれば、国内でも造らなくなったという話を聞くと、正二くんは、 「売っているうちに、早く買ってもらいたいものだ。」と思ったのです。それで、お父さんに向かって、またお頼みしたのでした。すると、 「なくなることはない。高くなっても、お前が中学へ上がるときには買ってやるから、心配しなくていい。」と、お父さんは、いわれたのでした。 学校では、小谷も、安田も、森も、みんな時計を持っていました。いままで持っていなかった高橋も、このごろ買ってもらったといっていました。正二くんは、みんなが上着のそでをちょっとまくって時計を見るときのようすが、目についていてうらやましくなりました。時計があると徒競走をしても、タイムが取れるし、学校へいくバスの中でも時計があれば、安心できると思ったのです。正二くんは、いつか兄さんがいい時計を買いたいといっていたことを思い出して
小川未明
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