小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
春のころ、一度この谷間を訪れたことのあるしじゅうからは、やがて涼風のたとうとする今日、谷川の岸にあった同じ石の上に降りて、なつかしそうに、あたりの景色をながめていたのであります。 小鳥たちにとって、この二、三か月の間は、かなり長い間のことでありました。そのときは、やっと雪の消えたばかりで、見るものがすべて希望に燃え立っていきいきとしていました。しじゅうからは、葉のしげったかしの木を見つけて、巣をかけようかと、友だちと枝の間を飛びまわっていました。日光の射しぐあいなどをしらべなければならなかったからです。 すると、かしの木は、不平らしい顔つきをして、 「承諾なしに、私の枝へ巣をかけてはいけません。」といいました。 それは、無理のない言い分でありました。しじゅうからは、つい断るのを忘れてしまったのです。なぜなら、巣をかけることは鳥たちにとって、あたりまえのことで、わるいことと思っていなかったからでした。 「ごめんください。どうぞ私に、小さな枝を貸してくださいませんか?」と、頼みました。 「昨日も、美しいこまどりがきて、いろいろ頼んだのですけれど、どうも鳥に巣をかけさせると葉を汚して、いやに
小川未明
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