小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
美しいちょうがありました。 だれがいうとなく、この野原の中から、あまり遠方へゆかないがいい。ゆくと花がない、ということをききましたから、ちょうは、その野原の中を飛びまわっていました。 しかし、その野原は広うございましたので、毎日遊ぶのに、不自由を感じませんでした。自分ばかりでない、たくさんのほかのこちょうもいました。また、みつばちもいましたから、さびしいことはなかったのです。 野原には圃がありました。菜の花が咲いています。また、麦がしげっています。そのほか、えんどうの花や、いろいろの花が咲いていました。その花の上や、青葉の上を飛びまわっているだけでも、一日かかるのでありました。 ある日のこと、みつばちは、そのちょうに向かっていいました。 「私たちは、菜の花や、えんどうの花の上を飛びまわっているだけなら、まちがいはありません。それはこの圃の中にさえいれば、夏になると、なすや、うりの花が咲きますから、とうぶん花の絶えるようなこともありません。その時分にはせみも鳴くし、いろいろの虫も鳴きます。まあ遠くへいくなどという考えを起こさずに、おちついていることですね。」と、みつばちはいったのです。
小川未明
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