小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
町はずれの、ある橋のそばで、一人のおじいさんが、こいを売っていました。おじいさんは、今朝そのこいを問屋から請けてきたのでした。そして、長い間、ここに店を出して、通る人々に向かって、 「さあ、こいを買ってください。まけておきますから。」と、人の顔を見ながらいっていました。 人たちの中では、立ち止まって見てゆくものもあれば、知らぬ顔をして、さっさといってしまうものもありました。しかし、おじいさんは、根気よく同じことをいっていました。 そうするうちに、「これは珍しいこいだ。」といって、買ってゆくものもありました。そして、暮れ方までには、小さなこいは、たいてい売りつくしてしまいました。けれど、いちばん大きなこいは売れずに、盤台の中に残っていました。 おじいさんは、大きなのが売れないので、気が気でありませんでした。どうかして、それをはやく、あたりが暗くならないうちに売ってしまいたいと、焦っていました。 「さあ、大きなこいをまけておきますから、買ってください。」と、しきりにおじいさんはわめいていました。 みんな通る人は、そのこいに目をつけてゆきました。 「大きなこいだな。」といってゆくものもありま
小川未明
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