小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ある町に一人の妙な男が住んでいた。昼間はちっとも外に出ない。友人が誘いにきても、けっして外へは出なかった。病気だとか、用事があるとかいって、出ずにへやの中へ閉じこもっていた。夜になって人が寝静まってから、独りでぶらぶら外を歩くのが好きであった。 いつも夜の一時ごろから三時ごろの、だれも通らない町の中を、独りでぶらぶらと歩くのが好きであった。ある夜、男は、いつものように静かな寝静まった町の往来を歩いていると、雲突くばかりの大男が、あちらからのそりのそりと歩いてきた。見上げると二、三丈もあるかと思うような大男である。 「おまえはだれか?」と、妙な男は聞いた。 「おれは電信柱だ。」と、雲突くばかりの大男は、腰をかがめて小声でいった。 「ああ、電信柱か、なんでいまごろ歩くのだ。」と、妙な男は聞いた。 電信柱はいうに、昼間は人通りがしげくて、俺みたいな大きなものが歩けないから、いまごろいつも散歩するのに定めている、と答えた。 「しかし、小男さん。おまえさんは、なぜ、いまごろ歩くのだ。」と、電信柱は聞いた。 妙な男はいうに、俺は世の中の人がみんなきらいだ。だれとも顔を合わせるのがいやだから、いま時
小川未明
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