小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
とうげの、中ほどに、一けんの茶屋がありました。町の方からきて、あちらの村へいくものや、またあちらの村から、とうげを越して、町の方へ出ていくものは、この茶屋で休んだのであります。 ここには、ただひとり、おじいさんが住んでいました。男ながら、きれいにそうじをして、よく客をもてなしました。お茶をいれ、お菓子をだしたり、また酒を飲むものには、あり合わせのさかなに、酒のかんをして、だしました。おじいさんは、女房に死なれてから、もう長いこと、こうしてひとりで、商売をしていますが、みんなから、親しまれ、ゆききに、ここへ立ち寄るものが、多かったのであります。おじいさんは、いつも、にこにこして、だれ彼の差別なく、客をもてなしましたから、だれからも、 「おじいさん、おじいさん。」と、いわれていました。 おじいさんも、こうして、いそがしいときは、小さなからだをくるくるさして、考えごとなど、するひまはありませんが、人のこないときは、ただひとり、ぼんやりとして、店さきにすわっているのでした。すると、いつとなしに、眠気をもよおしていねむりをするのでした。 もっとも、だんだん年をとると、こうして、ひとりでじっとして
小川未明
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