小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
毎年のように、遠いところから薬を売りにくる男がありました。その男は、なんでも西の国からくるといわれていました。 そこは、北国の海辺に近いところでありました。 「お母さん、もう、あの薬売りの小父さんがきなさる時分ですね。」と、二番めの女の子がいいました。 すでに、あたりは、初夏の日の光が、まぶしかったのであります。そして、草木の芽がぐんぐんと力強く伸びていました。 「ああ、もうきなさる時分だよ。」と、母親は、働いていながら答えました。 その薬売りの小父さんという人は、ほんとうに、やさしいいい人でありました。いろいろな病気にきくいろいろな薬を箱の中にいれて、それを負って、旅から旅へ歩くのでありました。そして、ここへも、かならず年に一度は、ちょうど、あのつばめが古巣を忘れずに、かならずあくる年には舞いもどってくるように、まわってきたのでした。 この小父さんは、だれにもしんせつでありました。また、どんな子供をもかわいがりました。だから、子供も、この薬売りの顔を見ると、 「小父さん、小父さん。」といって、なつかしがりました。 「今年も、なにか小父さんは、持ってきてくださるかしらん。」と、二番めの
小川未明
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