小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
私達は、この社会生活にまつわる不義な事実、不正な事柄、その他、人間相互の関係によって醸成されつゝある詐欺、利欲的闘争、殆んど枚挙にいとまない程の醜悪なる事実を見るにつけ、これに堪えない思いを抱くのであるが、それがために、果して人間そのものについて疑いを抱かないだろうか。 知らぬ人間を容易に信じてはならないということは、一般の人々の習わしの如くになっている。それは、人間を信ずるの余り、思わぬ災害に逢着する事実から、お互に、妄りに信ずべからずとさえ思うに至ったのである。 人間が、人間を信じてならないということは、正しいことだろうか。また、みだりに知らない人を信ずることができないという、それ等の事実は、この人生に於て、黙止してすむべきことだろうか。 いま、多くの人々は、自己の周囲についてのみ、あまりにこだわり過ぎていまいか。そして、あまねく人間に対する考察に於て、また、同じく愛し合わなければならぬ筈のものを、忘れてしまっているのではあるまいか。 自分達の生活――それは、実利的な、独善的な――たゞ、それが支障なく送られゝばそれでいいという考えから、広く人類について、また社会について、考える必要
小川未明
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