小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
あるところに、牛を持っている百姓がありました。その牛は、もう年をとっていました。長い年の間、その百姓のために重い荷をつけて働いたのであります。そして、いまでも、なお働いていたのであったけれど、なんにしても、年をとってしまっては、ちょうど人間と同じように、若い時分ほど働くことはできなかったのです。 この無理もないことを、百姓はあわれとは思いませんでした。そして、いままで自分たちのために働いてくれた牛を、大事にしてやろうとは思わなかったのであります。 「こんな役にたたないやつは、早く、どこかへやってしまって、若いじょうぶな牛と換えよう。」と思いました。 秋の収穫もすんでしまうと、来年の春まで、地面は、雪や、霜のために堅く凍ってしまいますので、牛を小舎の中に入れておいて、休ましてやらなければなりません。この百姓は、せめて牛をそうして、春まで休ませてやろうともせずに、 「冬の間こんな役にたたないやつを、食べさしておくのはむだな話だ。」といって、たとえ、ものこそいわないけれど、なんでもよく人間の感情はわかるものを、このおとなしい牛をひどいめにあわせたのであります。 ある、うす寒い日のこと、百姓は
小川未明
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