小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
あるところに、子供をかわいがっている夫婦がありました。その人たちの暮らしは、なにひとつとして不足を感ずるものはなかったのでありましたから、夫婦は、朝から晩まで、子供を抱いてはかわいがっていることができました。 子供は、やっと二つになったばかりの無邪気な、かわいらしい盛りでありましたので、二人は、子供の顔を見ると、なにもかも忘れてしまって、ただかわいいというよりほかに思うこともなかったのであります。 「どうしてこんなに無邪気なのでしょうね。赤ちゃんの目には、なんでも珍しく見えるのでしょうね。ほんとうに、こんなときは神さまも同じなんですわね。」と、妻は、夫に向かっていいました。 夫も目を細くして、じっとやさしみのある目を子供に向けて、妻の言葉にうなずくのでありました。二人は、同じように、我が子をかわいがりましたが、中にも妻は女であるだけに、いっそうかわいがったのであります。 しかし、この世の中は、美しい、無邪気なものが、つねに、神に愛されて変わりなしにいるとばかりはまいりません。美しい、無邪気なものでも、冷酷な運命にもてあそばれることがたびたびあります。それはどうすることもできなかったので
小川未明
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