小川未明 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
敏ちゃんは、なんだかしんぱいそうな顔つきをして、だまっています。 「どうしたの?」と、姉さんがきいてもだまっています。 「おかしいわ。いつも元気なのに、けんかをしてきたんでしょう。」 「ばか。だれがけんかなんかするものか。」 「じゃ、どうしたの?」 「なんでもないのだよ。」 敏ちゃんは、あちらへいってしまいました。そしてまた、考えていたのです。それには原因があったのです。わけといって、ただお友だちの徳ちゃんが、今日川へ釣りにいって見てきたことを話しただけですが。 「今日、僕、釣りにいったら、一匹の大きなへびがいなごをのんでいるのを見たんだよ。へびって、にくらしいやつだね。だから、石をなげてやった。」 「そうしたら、どうしたい?」 「どこかへはいって、見えなくなってしまったよ。」 話というのは、ただこれだけです。けれど、敏ちゃんにはその話がなんでもなくなかったのは、つい二日まえのことでした。長いあいだかわいがっていたきりぎりすを、その田んぼの方へ逃がしてやったからです。なぜ、そんなにかわいがっていたきりぎりすを逃がしたかというのに。 ちょうど兄の太郎さんが、お庭で草をとっていましたが、家
小川未明
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