菊池寛 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
朝から競馬場へ駈けつける。直ぐに穴場へ飛びこむ。馬券を握ってスタンドへ出る。スタートが切られて、ゴールになって、しかし自分の買った馬は不幸惨敗を喫してしまう。それから曳馬でも見てまた直ぐ穴場へ入って馬券を買って……。 そんな具合に朝のうちから馬券に熱くなっている人を見ると、見ている方で却ってはらはらする。 競馬の番組の仕組と云うものは、関東と関西とでは多少違うが、どっちにしても特殊レースとか大レースとか云った類いのものは、殆んど午後の競走にしているのが普通である。それを朝のうちから二度も三度も馬券に滑ったりすれば、相当に気持が腐って、愈々その日じゅうでの興味あるレースとか大レースとかの時には、まともな勝馬の鑑定力さえ失ってしまう。そうなると益々気持が腐る。時には焦立たしいような気持にさえなる。 元来が競馬は楽しみに行くべきものだ。それが少しも楽しいものでなくなるなどは賞めた事ではない。 損してもいい一定の金額などをきめて行ったにしても、午後の競走の八競馬あたりには、もう最後の二十円しかなくなってしまったなんて事になれば、気を入れてみたい所なのにそうも行かない、味気ない心にならざるを得な

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