菊池寛 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
コツコツとかすかなノック。 「お入り!」というと、美智子の眉の長いかわいい顔がのぞき込む。 「村川さん、かくれんぼしない?」 「かくれんぼですか、また!」 村川は、少したじたじとなる。この川辺家へ来てから、幾度かくれんぼに引き出されたかわからない。 「いいわよね。しましょうよ、ね。村川さん!」 六歳にして、すでに女らしい媚態を持つ、おませなモダンガールの美智子である。 「ね、お姉さまも、倭文子さんもお入りになるのよ。いらっしゃいよ。」 といって、村川はこのかわいい強制を、断らねばならぬほど用のある身体でもない。まして、今日は日曜の午後である。 村川は、この四月に京都大学の法科を出て上京して以来、下宿を見つけるまでのしばらくをこの川辺家に寄寓しているのだが、彼は、この家の主人から、ずっと前から世話になっている。高等学校時代からの学資も、この家の主人の尽力で、実業家の今井当之助から出してもらった。彼が卒業すると、すぐ今井商事会社に勤めることになったのも、一つはその恩義に報いるためである。 彼は、秀才で美男であった。しかも、近代的な美男であった。二三年振りに、彼に会ったこの家の長女の京子が、

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