菊池寛 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
奉行と人相学 菊池寛 大岡越前守は、江戸町奉行になってから一、二年経った頃、人相と云うことに興味を持ち始めた。 それは、月番のときは、大抵毎日のように、咎人の顔を見ているために、自然その人間の容貌とその人間の性格とを、比較して考えるようになったのである。 が、大抵の場合、人殺しや、強盗は凶悪な面構えをしているし、かたりやすりは、ずるそうな顔をしている。 が、折々愚直そのものと思われるような男がずぶとい悪人であったり、虫も殺さないように見える美人が、亭主を毒殺などしている。そうして見ると、愚直そのものと思われる顔にも、どこかに根ぶとい狡猾性がひそんでいなければならないし、虫も殺さないような美しさの中にも、人に面を背けさせるような残忍性が、ひそんでいなければならない筈である。 そう云うものを見つけるには、人相学と云ったようなものを、研究しなければならないのではないかと考えていた。 丁度その頃、彼は旗本の士である山中左膳と知合になった。左膳は当時の大儒室鳩巣の門下で、代講までするほどの高弟であったが、中途から易学に凝り出し、易、人相、手相などを研究していた。看板こそかけていないが、内々では易

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