岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
内村直也の劇作家としての出発は「秋水嶺」だと言つていい。旧朝鮮の日本人コロニイを背景とした「秋水嶺」は、現代日本の「青春」の一風景が素直な眼で捉へられ、健やかな感覚で舞台にくりひろげられた注目すべき力作であつた。私は故友田恭助に勧めてこれを築地座の上演目録に加へることにした。 「秋水嶺」から「雑木林」までは可なり年月の距りがある。劇作家を成熟させる外部的条件に甚だしく恵まれないわが国の現状を、内村直也は他の多くの劇作家と同様に、その内部的な諸条件によつてのみ克服しなければならなかつた。彼は、おそらく、演劇への愛情に支えられながら、生活人としての自己訓練に、その社会的地位を利用したと信じる理由がある。菅原電気の常務取締役は、一個の企業家的存在である以上に、時代に生きる人間群にまぢつて、興味ある典型の観察を怠らなかつたに違ひない。「雑木林」には勤労階級の微細といふよりも寧ろ穿つた心理追及がみられるが、私は、この作家のリアリストとしての半面に、やゝ控え目ながら、フアンテジストとしての一面があることを見落してはならぬと思ふ。彼の芸術家としての反逆精神は、その円満なモラルのうちにはあまり現はれな
岸田国士
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