岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「演劇週評」その序言 岸田國士 毎週一回、やかましく云へば演劇に関する時評、くだけて云へば芝居四方山話といふやうなものを書くことになつたのですが、日本の劇壇に親しむやうになつてから頗る日が浅く、市村座が二長町とかに在るといふやうなこともつい此の間知つたばかり、人気俳優沢田正二郎君の舞台も、一二ヶ月前に一度見たつきり、左団次氏が武蔵屋であるか松坂屋であるか、さういふことも、たうたう覚える機会がなく、水谷八重子嬢は、もう三十ぐらゐになる方かと思つてゐたりした、うかつな人間ですから、どうせ、面白い噂の種を拾ひ集める芸当などは、僕の柄ではないのです。 と云つて、「週評」と銘打つたからには、何か時事問題に触れた議論なり、意見なりを書かねばなりますまいが、これまた、新聞は気の向いた時にしか読まない、劇場の方に関係してゐる人とは、殆ど面識がない、さういふ状態ですから、大事なことを知らずに過ごす場合がないとも限らない。 そんなら、どうして、かういふ役目を引受けたか――そこには一口に云へない理由があるのです。 僕は元来、今現に日本に在るやうな芝居、つまり、歌舞伎劇を始め、新派劇、新劇……さういふ芝居を、
岸田国士
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