岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
クロニック・モノロゲ 岸田國士 海岸の小さな貸別荘。 舞台は八畳と六畳の二間続きで、八畳には籐椅子、テーブルの他に本箱、寝台、六畳には、同じく寝台を中央に、箪笥、屏風、鏡台、衣桁、長椅子。 奥は一間の張出窓、硝子戸が締めてある。 長椅子に、女が倚りかゝつてゐる。女は毛糸の襟巻をし、腰から下を毛布で包み、紙人形をこしらへてゐる。 時々、歌を口吟むのだが、すぐに息切れがするので、そのたびに、大きく溜息をつく。 ほゞ形の出来上つた人形を、明りに照してみながら、 女 どうして、今日はかう遅いんだらう。また悪友に引張られて、銀座をうろつき廻つてるんだわ。終列車に乗り遅れたつて、知らないから……。四円四円つて馬鹿にならないのよ。はゝゝゝ、なるほど、肩が怒りすぎてるわ……。どうも、ピエロの感じが出ないと思つた……。こらこら、もつと肩をおさげ……。今、眼の縁を青く塗つたげるからね。そうら、うまい工合に月が出て来たぢやないの……。明日籾山先生がいらつしやるまでに、ちやんと出来てないといけないわ。あの先生は、何かしら、あたしにお世辞が云ひたくつてしやうがないのよ。そろそろ種がなくなつて困つてるに違ひない
岸田国士
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