岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
浜野計蔵の家の応接間。 隠退せる高級官吏の格式と、憲法発布前後笈を負つて都に上つた人物の趣味とを語る室内の調度――例へば、維新元勲の書、地球儀、コロオの複写、硝子箱入の京人形、蝶の標本を額にしたもの等。 時は、大正八年頃の初春。 場所は、東京山の手の某区某町。 正面の窓からは、午後の日を受けた庭の一部が見え、赤い椿の花が植込の間からのぞいてゐる。 長男の計一と次男の紳二とが話しながらはいつて来る。兄は三十二三、弟は二十八九である。 紳二 おやぢにはもう少し黙つてた方がいいと思ふな。計一 黙つてて、それでどうするんだ?紳二 僕たちで、始末を考へるのさ。おやぢなんて、それこそ、何をやらかすかわかりませんよ。計一 (軽く冗談めかして)それやわからん。(間)あいつに短刀をつきつけるか、自分が腹をきるか……。紳二 をかしいな。僕も、すぐそれを考へたんだ。しかし、やつたら、馬鹿だな。計一 まあ、さういふ詮議は後廻しにして、お前の意見を聴かうぢやないか。八洲子の云ふことは、なにもかもほんとだと思ふか?紳二 なにもかもつて、八洲子はてんで口を利かないぢやありませんか。お母さんひとりが呑み
岸田国士
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