岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
芝居の脚本を書くのには、まず、標題のつぎに、その劇が行われる時と場所と登場人物とを、はつきり書きあげるのが定石である。 私はいま、ここで脚本を書くつもりはないが、年々歳々、違つた場所で正月を迎えるのが例のようになつてしまつた私の年頭感は、まず、ああ今年は、こんなところで年をとることになつたか! である。 いよいよ六十三回目の元日は、この小田原でということになると、第一回目の元日を東京四ツ谷で、両親と共に迎えて以来、よくもよくも生きたものかな! と思う。 少年時代を東京と名古屋で、青年期を東京と九州で、二十台の終りから五年間をヨーロッパで過した関係で、いつの正月を、どこで、誰れと誰れとでしたかを、いちいち思い出すことは不可能だ。 ただ、これが最後の元日だろうと思つたことは一度もなく、同じ元日は二度ないという事実を否定しようとしたこともない。 ぼんやりとではあるが、小学生の頃の正月が一番胸のおどるような正月だつたことだけは記憶の底にある。 おやじが近衛連隊に勤めていたから、一家の正月は、その正装のように、にぎやかなものだつた。 おやじが馬に乗つて出掛けると、私は、学校の式へ友達を誘つて行く

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