岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
人物 遠藤又蔵 妻 なほ 娘 きぬ 学生 床屋の主人 若い男 老紳士 隣の細君 職人 場所 東京の場末 時 冬のはじめ 煙草店の主人遠藤又蔵は、夕刊を読みながら、傍の娘きぬに話しかけてゐる。 又蔵 そんなこと云つて、お加代はあれでいくら取つてると思ふ。きぬ 先月から三十円になつたのよ。又蔵 だからさ、その三十円は、お前、みんな電車代とお化粧代になつちまうんだぜ。きぬ 知つてるわ。又蔵 知つてる……? 知つてるなら、なぜそんなことを云ふんだ。お前がかうして店の番をしてゐればこそ、こんな店でも、ぼつぼつお客の足がついて来たんだ。ほんとだよ。なにもそんな顔をするこたあありあしねえ。きぬ だから、いやだつて云ふのよ。看板みたいに、こんなとこへ坐つてんの、あたしもういやなのよ。又蔵 それも家のためぢやないか。お加代があゝしてよそへ働きに行くのも、云つて見れや、家のためだ。あそこはお袋一人で、財産もなし、兄哥が取つてくるだけぢや、どうにもやつて行けないと云ふので、しかたがなしに、あゝやつて他人の中へ働きに行くんだ。それがいゝことか、悪いことか、わしにやわかつとる。ろくなもんにやなりつ

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