岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
かうと思つたらどうしてもそのことをやり遂げないと承知できない人物がゐる。 やり遂げる意志の力はまことに見あげたものであるが、「かうと思ふ」、その「かう」が問題であつて、結果の是非善悪はまたおのづから話が別であらう。 だが、ともかくも、さういふタイプの男としてすぐ私の眼に浮ぶのは、おそらく諸君の多くはその名前を聞かれたこともないであらう奥山恩といふもう初老に近い国文学者である。 国文学者にもいろいろある。 それをこゝでいちいち類別する煩をさけるが、奥山恩は、決して、訓詁を事とする旧学派に属してはゐない。むしろ、古典に対する絶大な愛を示しつゝ、なほかつ、その社会史的意義を正しく捉へ、現代につながる生命の発見に、むしろ最も激しいよろこびを感じる柔軟な頭脳の持主であつた。 彼は型の如く学校で英語は学んだけれども、シェイクスピヤもエリオットも原書でこれを読みこなす自信はなく、すべての外国作家なみに、目星しい翻訳に頼ることにきめてゐた。その代り、国文専攻の学者としては珍しいくらゐに、印度、支那、ギリシヤからはじまつて、世界のあらゆる国、あらゆる時代の文学をひとわたり、ひろひ読みをし、若いものをたじ

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