岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
舞台は黒幕の前、左手と右手にそれぞれ室内を暗示する簡単な装置。中央は街路。照明の転換によつて、この三つの部分が順々に利用される。 最初は、中央の街路上に二つの人影。 老人 ひとりつきりになつたね。少女 おぢいさんは、さつきから、なにしてるの?老人 なんにもしてない。歩いてゐるだけだ。お前が、そこに立つてるのとおなじさ。少女 あたしたちは、たゞ立つてるだけぢやないわ。誰かしらに用事があるんだわ。老人 なるほど、あんなに多勢ゐたお前の仲間は、みんな誰かしらとどこかへ行つてしまつた。お前はどうしていつまでもこゝにゐるんだい?少女 わかつてるぢやないの。誰もあたしと一緒に行かうつていはないからよ。うそだわ。ひとりゐたわ。でも、あたし、いやだつたの。こわいみたいな男だつたから。老人 むろん誰とでもいゝつてわけにはいくまい。みんな自分でこれと思ふのを探してゐるぢやないか。当り外れはそれやあるだらう。お前が撰んだ相手は、あひにく、お前ではといふんだな。少女 さういふもんよ。あたしはそんなに撰り好みはしない方だわ。日によるのよ。老人 お前はおれのやうな年寄りでもかまはないか。少女

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