岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
嘗てイタリーへ旅行しました時、ロナで、或るシェイクスピアの作中のそれのやうな月のいゝ晩に、市中を歩いてをりますと、「ロミオとジュリエットの墓」といふ標札が目に附きました。多分、後人の拵へ物だらうと疑ひながら、その墓の中へ入つて行きますと、墓の中には、大理石の大きな棺桶がたつた一つ。「ロミオとジュリエットの墓」なら二つありさうなものと思つて、捜して見ましたけれども、見つかりませんでした。しかしその一つが可なり大きいので、今日の人間なら二人分だとも見えます。二人ゆつくり並んで寝られるほどの棺でありますが、その棺の中には、無論ロミオの頭蓋骨もなく、ジュリエットの腕の骨一つ入つてゐないのでした。うす暗くて、よくわかりませんでしたが、奥の方にはイタリー特有の糸杉の立木があつて、そこに何かの胸像らしいものが真白に浮き出てゐました。近づいて見ると、それはシェイクスピアの胸像でありました。棺を見ただけでは別にどういふ感じもなかつたのですが、その胸像を見ると共に、一種厳粛な、荘厳な気持に打たれ、実際自分が「ロミオとジュリエット」の舞台の人物といふほどでもありませんが、殆んどその時代にゐて、その物語りを直

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