岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
静かな海を見下ろす小高い砂丘の上 日没前後 男と女とが、向うむきに、脚を投げ出して坐つてゐる。「なんでもない同志」の間隔が、それとなく保たれてゐなければならない。 やゝ長い間 男 あアあ。南京豆が食ひたくなつた。女 南京豆……? それより、あれ御覧なさい、靄がだんだんこつちへ来てよ。男 靄は毒ぢやないでせう。これやいかん、尻がつべたい。僕は何時の間にか砂を掘つてゐた。女 燈台に灯がつくまで、こゝにゐませうね。男 勿論僕だつて帰らうとは云ひません。今日はなんだか重大な日だ。胸騒ぎがします。女 あたしは、なんだか知らないけれど、喉がかわくの。(急に歌ひ出す) 波の底に 呼ぶ声あり われあらずば 誰か応へん 男 (それを受けて、歌ふやうに呼ぶ真似をする) オーイ オーイ やゝ長い間 女 (朗かに笑ふ)男 女の友達つていふものは、どうしてかう、妙に相手をはぐらかすのかなあ。女 それは、男の友達つていふものが、変にどこへでもついて来たがるからよ。男 それは僕に云ふことぢやないでせう。僕はあなたからきめられた時間以外、場所以外に、あなたに近づかうとしたことはありません。女
岸田国士
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