岸田国士 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
内科の医者である私の友人Aは先日面白い話をきかせてくれた。 専門のことは私にはよくわからないが、Aはずつと以前から老齢期特有の病気に興味をもち、小児科に対して、老人科とでも称すべき医学の新分野を開拓しつゝある篤学の士である。 Aの研究によると、高齢者の肉体は常に衰耗の一路を辿るにしても、その程度はひとによつて違ふばかりでなく、同じひとりについて、部分的に遅速の差があり、その結果、ひとによつて、ある部分は既に老境に入り、ある部分は未だ青春の名残りをとゞめてゐるといふ現象がしばしばみられるといふのである。別の言葉で言へば、ある人間がどこから先に年を取りつゝあるかといふ徴候の測定によつて、臨床的に必要な対策を講じることができるのであらう。 しかし、かういふ事実は、素人のわれわれでも、ぼんやりとは感じてゐることで、それを学問的に系統づけ、その理論をいかに医者が応用するかといふことこそ、注目に値することなのである。 ところで、私は、その話から、いろいろ他愛もない空想をして、ひとり悦にいつた。 例へば、肉体各部の機能と精神のさまざまなはたらきとを明確に結びつける精神生理学なるものは成り立たないか?
岸田国士
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