楠山正雄 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ある時、河内国の交野という所に、備中守実高というお侍がありました。たくさんの田地やお金があって、きれいな奥方を持って、この世の中にべつだん不足のない気楽な身の上でしたが、それでもたった一つ、何よりいちばんだいじな子供という宝物の欠けていることを、残念に思っていました。それで夫婦は朝夕長谷の観音さまにお祈りをして、どうぞ一人子供をおさずけ下さいましといって、それはねっしんにお願い申しました。 そのねっしんがとどいたのでしょうか、とうとう一人かわいらしい姫さんが生まれました。実高夫婦はさっそく長谷の観音さまにお礼まいりをして、こんど生まれた姫さんの一生を、仏さまに守って頂くようにお頼みして帰って来ました。 この姫さんがずんずん大きく育っていって、ちょうど十三になった時、おかあさんはある時ふと風邪を引いたといって寝込んだまま、日にましだんだん様子が悪くなりました。おとうさんと姫さんとで、夜昼、まくら元につききりで看病したかいもなく、もういよいよ今日あしたがむずかしいというほどの容態になりました。 おかあさんはその夕方、姫さんをそっとまくら元に呼び寄せて、やせ衰えた手で、姫さんのふさふさした髪
楠山正雄
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