国枝史郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
小酒井不木さんが長逝された。前兆のようなものが私にあった。 私は新舞子に住んでいる。愛知県知多郡新舞子である。私の家の前に小酒井さんの別荘がある。私の家と同時に建てた別荘である。 新舞子は名古屋市から愛電に乗ると四十分で達する、その新舞子の一つ向うの駅を大野と云って世界で最も早く設立された海水浴場である。相当大きな町である。私の家のすぐ下に女の按摩さんがいる。お稲荷さんの堂守を兼ねている。よく私の所へも来て療治をしてくれる。或日その女の按摩さんが私の所へ来て次のように話した。 今日大野へ治療に行きました。三軒へ行ったわけです。すると三軒ながら私に訊くのでした。「国枝さんが死んだという噂があるが本当か?」と。で、私は云ってやりました。「いえそんな事はありません。現に今日も国枝さんを見掛けました」と。するとその人達は云いました。「ああでは小酒井さんが死なれたのだろう」と。この噂は大野ばかりで無く新舞子にも伝わって意外に反響を起したようであった。私は一寸気になったので小酒井さんへ電話で様子を訊ねようかと思ったが、小酒井さんはああいう科学者であり迷信らしいものを排していられたのであるから、そん
国枝史郎
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