国枝史郎 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
ボーン! 音だ! ピストルの音だ! ……と、そんなように思われた。 で探偵が走って来た。 町は相当賑かであった。 電車が五ツ通っていた。家根は黒く車体は緑で、そうして柱はピンク色であった。車輪が黄金色で車道は青い。だが何うしたというのだろう。客が一人も乗っていないではないか。自動車が九ツ流れていた。その中の一つは貨物自動車で、黄色い荷物をのっけている。 往来の左側にビルディングがあるがあまりに色の強い化粧煉瓦で、胴体のあたりを飾っているので、どっちかというとあくど過ぎた。 そのうしろにもビルディングがある。これは木製で茶色である。 そのうしろの遥かなたに、匂うような薄緑の大ビルディングが、町を圧して聳えていたが、その高さは五層楼で、窓が無数に眼を開けていた。だがそれにしてもその窓々が、薄紅く見えるのはなぜだろう? 時計台が頂きにある。カーン、カーンと二ツ打った。今は午後の二時と見える。 その大ビルディングの少し手前に、事務所めいた家が立っていた。家根がセピア色に見えるのは、銅でも張ってあるのだろうか? いやいや断じてそんなことはない。そんな高尚な建物ではない。ペンキ塗のがさつな建物なの
国枝史郎
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