黒島伝治 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
短命長命 黒島傳治 ある薄ら曇りの日、ぶらぶら隣村へ歩いた。その村に生田春月の詩碑がある。途中でふとその詩碑のところへ行ってみる気になって海岸の道路を左へそれ、細道を曲り村の墓地のある丘へあがって行った。 墓地の下の小高いところに海に面して詩碑が建っている。生田花世氏がここへ来て、あんたはよいところでお死にになったと夫の遺骸に対して云ったと、私が詩碑の傍に立って西の方へ遠く突き出ている新緑の岬や、福部島や、近海航路の汽船が通っている海に見入っていると、丘の畑へ軽子を背負ってあがって行く話ずきらしい女が云ってきかした。よいところというのは、たぶんこのあたりの風景のよさをさして云ったのだろう。 この南東を海に面して定期船の寄港地となっている村の風物雰囲気は、最近壺井栄氏の「暦」「風車」などにさながらにかかれているところであるが、瀬戸内海のうちの同じ島でも、私の村はそのうちの更に内海と称せられる湖水のような湾のなかにあるので、そこから丘を一つ越えてここへ来るとやや広々とした海と、その向うの讃岐阿波の連山へ見晴しがきいて、又ちがった趣がある。 私は詩碑の背面に刻みこまれている加藤武雄氏の碑文を
黒島伝治
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