小酒井不木 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「兄さん、こう暑くては、まったく頭がぼんやりするねえ」 少年科学探偵塚原俊夫君は、ある日の午後、実験室で、顕微鏡を見ていた顔をあげて私に言いました。七月になってから急に暑さが増して、二三日は華氏九十度近くに達しましたから、俊夫君が、このような嘆声を発するのも無理はありません。 「君の頭でも、ぼんやりすることがあるのかね?」 と、私は、別に皮肉を言うつもりでなく尋ねました。 「冗談いってはいけないよ。僕の頭だって誰の頭だってみんな同じだ。僕はただ物事を他人よりもいっそう深く考えることが好きなだけだ。考えさえすれば、だれの頭だってよくなるよ。 よく人は物事を考えると頭が熱するというけれど、僕はちょうど反対だ。僕は考えれば考えるほど、頭も身体も涼しくなるよ。今日でも、何か事件があれば、きっと涼しくなるのだが、この頃じゅう、とんと事件の依頼がないから、この暑さで、すっかり、頭がぼんやりした」 「夕立でもくるといいがねえ」 と、私は、俊夫君に同情して、窓越しに、晴れ渡った空を眺めました。 「普通の夕立なんかきたとて、僕の身体は涼しくならない」 と、俊夫君は、何となく不機嫌に言いました。 その時、
小酒井不木
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