斎藤茂吉 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
斎藤茂吉送別歌会 大正六年十二月二十五日東京青山茂吉宅に於て わが住める家のいらかの白霜を見ずて行かむ日近づきにけり 長崎著任後折にふれたる うつり来しいへの畳のにほひさへ心がなしく起臥しにけり 据風呂を買ひに行きつつこよひまた買はず帰り来て寂しく眠る 東京にのこし来しをさなごの茂太もおほきくなりにつらむか かりずみのねむりは浅くさめしかば外面の道に雨降りをるかな 聖福寺の鐘の音ちかしかさなれる家の甍を越えつつ聞こゆ ゆふぐれて浦上村をわが来ればかはず鳴くなり谷に満ちつつ 電灯にむれとべる羽蟻おのづから羽をおとして畳をありく うなじたれて道いそぎつつこよひごろ蛍を買ひにゆかむとおもへり 灰いろの海鳥むれし田中には朝日のひかりすがしくさせり とほく来てひとり寂しむに長崎の山のたかむらに日はあたり居り 陸奥に友は死につつまたたきのひまもとどまらぬ日の光かなや われつひに和に生きざらむとおもへども何にこのごろ友つぎつぎに死す おもかげに立ちくる友を悲しめりせまき湯あみどに目をつむりつつ かりずみの家に起きふしをりふしの妻のほしいままをわれは寂しむ うつしみはつひに悲しとおもへども迫り来ひとの
斎藤茂吉
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