佐々木邦 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
医者に勧められて朝起を一月ばかり続けている中に疑問が起った。古来朝起は一種の投資的美徳になっている。朝起三文の徳ともいえば、ずっと桁を飛ばして、朝起十両ともいう。前者は一回分を指し、後者は一生を通じての話と察せられる。西洋人も、 Early to bed and early to rise, makes a man healthy, wealthy and wise. (早く床につき早く起きることは、人を壮健、富裕、賢明ならしむ) と讃えて、韻律的に朝起を奨励している。而も私は一ヵ月間実践躬行の結果、壮健にも富裕にも賢明にもならない。神経衰弱は以前のまゝである。金は少し損をした。智慮分別は多大の打撃を受けて、精神に異状があるのではなかろうかと考えるようになった。 私のかゝる医者は年来懇意の所為か、私の身体を知り過ぎていて困る。私が見て貰いに行くと、 「何うかしましたか?」 と驚く。私のようなものが何うかする筈はないと思っているから、 「神経衰弱のようです」 と言って、その都度此方から病症を暗示してやらなければならない。引き続いて私が容体を述べる間、 「はあ、成程、はあ」 と先生は何か他
佐々木邦
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