佐々木邦 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
「秋ちゃん」 と水町君が見つけて、人の肩越しに呼びかけた。混んでいる汽車の中だった。 「あらまあ!」 ふり返った秋ちゃんは水町君の風体まで認識して、 「磯釣?」 と言い当てた。 「うむ。天気が好いから」 「どこ?」 「大岩浜」 「私も大岩よ」 「何しに?」 「親類がありますから」 水町君は村から市へ出て来て、市から汽車に乗ったのだった。五駅走ると海が見え始める。その海岸の第一駅が大岩で、そこへ日曜を利用して釣魚に行くのである。秋ちゃんも水町君と同じ村だ。今日は家の用で大岩の親類へ出掛ける。 水町君の家は大地主で、秋ちゃんのところは代々その小作だったが、世の中が変って、今は小さい地主になっている。田地を買わされたものと売らされたものゝ違いで、水町君のところも今では小さい地主になってしまった。もう両家の間に甲乙がない。しかし地主が殿様で小作がその家来だった昔の関係が今でも残っている。 駅々は客の乗り降りがあって、二人は漸く一緒に坐ることが出来た。秋ちゃんは大岩の親類のことを話した。網元らしい。釣れなければそこで貰って行く法もあると教えた。お昼にお弁当を食べにお出なさいと言って、家の在所を詳
佐々木邦
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