サマンアルベール · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
飾棚だの飾箱だのといふものがある。貴重な材木や硝子を使つて細工がしてある。その小さい中へ色々な物が逃げ込んで、そこを隠れ家にしてゐる。その中から枯れ萎びた物の香が立ち昇る。過ぎ去つた時代の、人を動かす埃がその上に浮かんでゐる。昔の人のした奢侈の、上品な、うら哀しい心がそこから啓示せられるのである。 己はさういふ棚や箱を見る度に、こんな事を思ふ。なんでも幅広な、奥深い帷に囲まれて、平凡な実世界の接触を免かれて、さういふところでは一種特別な生活が行はれてゐるのではあるまいかと思ふ。真成なる有といふものがあるとすれば、それに必要な条件が、かういふところで、現実的に、完全に備はつてゐるのではあるまいか。もし物に感じ易い霊のある人がゐて、有用無用の問題をとうとう断絶してしまつて、無条件に自然の豊富に己を委ねてしまつたら、かういふ棚や箱が、限なく尊いエリシオンの原野になるのではあるまいか。 己はかういふものを楽んで見るのが縁になつて、色々自分の為めになる交際を結ぶことが出来た。中にも己は或る古い、銀の煙草入れと近附きになつた。その煙草入れには、アレクサンドロス大帝が印度王ポロスを征服した戦争の図が
サマンアルベール
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