下村千秋 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
霞ガ浦といえば、みなさんはごぞんじでしょうね。茨城県の南の方にある、周囲百四十四キロほどの湖で、日本第二の広さをもったものであります。 日本第一の近江のびわ湖は、そのぐるりがほとんど山ですが、霞ガ浦は関東平野のまんなかにあるので、山らしい山は、七、八里はなれた北の方に筑波山が紫の色を見せているだけで、あとはどこを見まわしても、なだらかな丘がほんのり、うす紫に見えているばかりであります。 ですから、この湖の景色は、平凡といえば平凡ですが、びわ湖のように、夏、ぐるりの山の上に夕立雲がわいたり、冬、銀色の雪が光ったりすると、少しすごいような景色になるのとはちがって、春夏秋冬、いつもおだやかな感じにつつまれています。びわ湖を、厳格なおとうさんとすれば、霞ガ浦は、やさしいおかあさんのようだともいえるでしょう。この湖の周囲には、土浦、石岡、潮来、江戸崎などという町々のほかに、たくさんの百姓村が、一里おき二里おきにならんでいます。大むかし、人間は波のおだやかな海岸とか、川の岸とか、湖のまわりなどに一番さきすんだものですから、このおかあさんのようなやさしい霞ガ浦のまわりには、もちろんずっと大むかしから
下村千秋
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