素木しづ · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
咲いてゆく花 素木しづ 少女は、横になって隅の方に――、殆ど後から見た時にはランプの影になって、闇がどうしてもその本の表を見せまいと思われる所で、一心になって小説をよみふけっていた。 明日からつゞく夏休の安らかさと、大きな自由との為めに、少女はいま心一っぱいに、小説のなかのかなしいなつかしい少年とその家庭とについていつまでもいつまでも涙ぐむことが出来るのだった。そして自分の現在のすべてを幻のようにとかし込んで、夢のような息をはいていた。 おなじ部屋のランプの光りの中心には、中学に行ってる少女の兄と、その友だちが横になってこれから行わるべきボールのマッチのことについて話し合っていた。そして御互に青年だちは、その息も聞えないような少女について考えなかったし、また少女も小さな彼女の身体によって作られた闇のなかに封じられてしまったように、ランプの光りの方に振り向うとも、彼等の話しに耳をかたむけようともしなかった。 『おヤ、君の妹はあんな所で本をよんでるの。』 不意に一人の友だちが隅の方に頁をまくる音を聞いて云った。 『うん、そうだろう。』彼女の兄も同時に、隅の方を見た。 『本をよみ出すとまるで
素木しづ
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