薄田泣菫 · 日本語
冒頭段落プレビュー
原文 (日本語)
読書にも倦きたので、庭におりて日向ぼつこをする。 二月の太陽は、健康な若人のやうに晴やかに笑つてゐる。そのきらきらする光を両肩から背一杯にうけてゐると、身体中が日向臭く膨らんで、とろとろと居睡でもしたいやうな気持になるが、時をり綿屑のやうな白雲のちぎれが、そつと陽の面を掠めて通りかかると、急に駱駝色の影がそこらに落ちかぶさり、肌を刺すやうなつめたさがひとしきり小雨のやうに降りそそいで来る。その度にだらけようとする気持はひき緊められて、 「春もまだ浅いな。」 と、おぼえず口のなかで呟かれようといふものだ。 柳、桜、木蓮、無花果、雪柳といつたやうなそこらの木々は、旧葉の落ちた痕から、ちよつぴりと薄赤味のさした若芽をのぞかせて、小当りにこの五六日のお天気模様に当つてみてゐるらしいが、暖さ続きのうちにも、どうかすると急に寒さが後返りして、細かい粉雪でもちらちら降りかからうとするこの頃の模様を見ては、つい気おくれがするかして、めいめいしつかりと木肌にしがみついてゐるやうだ。そんななかに、梅の樹のみはもう真白な花をぱつちりと開いて、持前の息ざしの深い、苦味のある匂をぷんぷんとあたりの大気に撒き散ら

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